水稲栽培の基礎知識- 補稿
水稲栽培における中量要素・微量要素の役割と生育ステージ別の作物生理について
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アジアモンスーン気候の東に位置する日本は多雨の気候条件と低地の湿地土壌(Aquepts、Alluvialsoils)が水稲栽培に適し、古くから稲作が奨励されてきた。水稲の収量性向上は国の政策であり、大学・研究機関では稲作の研究がさかんに行われた。1950~1980年代の稲作研究は世界の中心となりこの間、数多くの成果と栽培技術が累積された。特に、水稲の生理・栄養面での研究は稲作技術の発展に大きく貢献した。科学的基礎知識に支えられた栽培技術(施肥法、品種、土壌改良、病害防除、農業機械などの生産手段の進歩)によって、低収要因が段階的に克服され、1970年には過剰米を抱えるほど量と質の両面から米の供給が可能になった。
官民一体となった稲作研究からすでに半世紀が過ぎ、稲作を取り巻く環境は大きく変化した。大学や公設研究機関の稲作研究が立ち消えになって久しい。近年、気象変動に強く、環境保全、減化学肥料、有機農業など多様なニーズに対応した持続性の高い水稲栽培への転換が求められている。今後、新たに開発される稲作技術はこれまでの科学的基礎知識の応用でもある。水稲の形質・形態、栄養・生理、施肥法、診断法など世界の中心となって集積された日本の情報をもって「水稲栽培の基礎知識」を補完することによって、稲作に従事する人々の今後の発展に幾分なりとも役立つことを期待する。
中量・微量必須要素の生理作用
硫黄(S)
硫黄は必須元素の一つであり、タンパク質を構成する成分である。タンパク質のイオウと窒素はほぼ同程度の含有量があり、生育初期の体をつくるために必要である。硫黄はSO42-の形で根から吸収され、そのまま茎葉に移行して葉緑体で還元同化され硫黄化合物となる。硫黄が不足するとタンパク質の合成が低下しイネの生長、分げつが停止する。硫黄欠乏症は生育初期に現れやすく、症状は葉か小さく淡黄緑色となり下葉が黄変する。分げつ数も少なく、根の生長も衰える。一般に硫黄欠乏症の水田は天然供給量の少ない鉱質土壌、有機物含量の少ない土壌であり、可給態硫黄20ppm以下では発症しやすい。また、土壌の還元が進み鉄・マンガンが過剰に生成されると、硫黄の溶解度が低下し、硫黄欠乏症が発生する。近年、長く無硫酸根肥料の多用している水田でも土壌の硫黄濃度が低下して硫黄欠乏症が見られるようになった。
水稲のイオウ欠乏(強グライ土壌)
マンガン(Mn)
マンガンは水稲にとって重要な微量要素の一つである。湛水状態では二価のマンガン(Mn2+)として土壌養液中に溶解し、Mn2+イオンとして根から吸収される。蒸散流で葉に取り込まれ、おおくは葉緑体に存在する。マンガンは遷移元素として、光合成のしくみ中で酸素の発生、各種酵素の活性化など生理作用に不可欠な電子伝達系を担う重要な元素である。一般に水田状態ではマンガンは可給化されやすく欠乏になることは少ないが、老朽化水田や砂質土壌ではマンガンが溶脱されやすく、作土層の有効態マンガンの絶対量が不足している。易還元性マンガンが10ppm以下(適正50~80ppm以上)の水田はマンガン供給力が低下していると見なされる。水稲の生育中期以降にカリ、ケイ酸、マンガン、苦土の欠乏はごま葉枯れ病(病原は糸状菌)を誘発する。ごま葉枯れ病は肥料が流亡しやすい砂質土壌や根腐れの多い秋落ち水田で多くみられる。
水田における鉄、マンガンの下層への溶脱
ケイ素(Si)
ケイ素は必須元素ではないが、水稲にとっては生育に大きく影響する有用元素である。水稲は100kg/10a前後のケイ酸を吸収する。ケイ酸塩として土壌中には大量に存在するが大部分は不溶性であり、水田土壌のケイ酸供力は低い。花崗岩を母材とした砂質土壌はケイ酸供給力が低く、リン酸吸収係数の高い土壌はケイ酸の土壌吸着量が大きい。水稲のケイ酸の供給源は土壌の有機物(稲わら、堆肥など)からの供給が最も多く、次にケイ酸質資材、灌漑水からの供給である。水田土壌の有効態ケイ酸濃度15mg/100g以下でケイ酸肥料の効果が期待できる。水稲は水溶性のオルソケイ酸(H4SiO4)を根の呼吸作用で積極的に吸収する。導管を通って蒸散流で地上部へ移動し、茎葉の表皮細胞や末端部位である葉身、もみ殻の表層でゲル化して、シリカ(SiO2)として沈着する。葉の表皮組織は細胞壁とクチクラ層の間に重合したシリカゲルとして沈積する。茎葉の物理的強度を増し、水稲の耐倒伏性・耐病性(菌糸の侵入を阻止)の向上、受光態勢の改善・光合成を高めるなど収量品質の向上に大きく貢献している。ケイ酸が欠乏すると、稲全体が軟弱で穂長は短く減収の要因となる。他に褐茶米など発生し、米質が著しく低下する。このように、水稲に対するケイ素の有用性はケイ素の表皮細胞への集積によって、葉の水ストレスの回避と稲体の物理的強度によって発揮されている。また、ケイ酸は乳白米発生の軽減など高温ストレス障害にも有効である。
鉄(Fe)
土壌中の鉄は第一鉄(Fe2+)、第二鉄(Fe3+)の酸化状態で存在する。好気的な土壌ではほとんどが難溶性のFe3+であるが、湛水下では水稲に吸収されやすいFe2+まで還元され溶液中の溶解度を増す。一般に湛水下の水田は溶液中の二価鉄濃度が著しく高いため、水稲根は鉄排除機能を有して鉄の吸収を抑制している。排水不良田など土壌条件によっては鉄の過剰症(赤枯れ症:葉に茶褐色の斑点、葉先、葉縁から枯れる)が見られる。対策として、加里肥料を多用すると根の鉄排除機能が高まり、症状を軽減できる。土壌中の鉄の溶解度はpHが高い場合は不溶性の水酸化第二鉄(Fe(OH)3)として沈殿するため、鉄の吸収が抑制される。銅、マンガン、亜鉛の重金属類の過剰は鉄との拮抗作用により鉄欠乏症(クロロシス:新葉の黄白変・部分的に褐色の斑点)を誘発する。水稲は他の作物に比較して鉄の要求量が大きく、鉄濃度が低い時は積極的に吸収する。体内では二価鉄イオン(Fe2+)として、一部は特定なタンパクと結合してFeタンパクの形で存在している。鉄は葉緑素の構成成分ではないが、体内ではFe2+とFe3+の二つのイオン状態を取り得るため、直接酸化還元の反応に関与する。鉄の生理作用で最も重要な光合成の電子伝達系、エネルギー代謝や各種酵素の活性化に関与している。水田土壌中の鉄(遊離酸化鉄)は作付期間中に発生する硫化水素、有機酸などの有害成分から根を守る役割(根腐れ防止)として重要である。遊離酸化鉄は老朽化水田や砂質土壌では作土から下層に溶脱されて、作土層は鉄含量が低下している。水田土壌の遊離酸化鉄は0.8%以上が望ましく、鉄欠乏水田では含鉄資材(転炉さい)200kg/10aの施用で根の活力が維持され、水稲収量の向上が見られる。
ホウ素(B)
土壌中のホウ素は酸素と結合したホウ酸(H3BO3)、その塩として存在する。土壌養液中には分子状のホウ酸、またはB(OH)4–のイオンとして在存する。ホウ素の形態は土壌pHで異なり、pH<7の酸性域ではH3BO3が優勢(有効態ホウ素)で、pH≧7の中性、アルカリ域ではH3BO3が減少しB(OH)4–イオンの形態が増加する。ホウ素はBO33-の形で吸収され、蒸散流れで茎葉に運ばれる。稲はホウ素の要求量が低く欠乏症は発生しにくいが、pHの高い土壌は有効態ホウ素が減少し欠乏症が見られる。ホウ素は細胞壁の構成維持に必要な元素であり、他に光合成によって生成した糖の輸送に関与する。欠乏すると分裂組織に影響が現れ、水稲では初期の生育抑制、穂数・一穂籾数の減少・粃(不稔籾)の増加や花粉管の伸長抑制による出穂不良が症状として見られる。一般に土壌の有効態ホウ素(熱水抽出)の適正範囲は0.5~1.0mg/kgと適量域が狭い。0.3mg以下では欠乏症が発生する。陽イオン交換容量の小さい砂質・砂壌土質や腐植の乏しい土壌はホウ素の土壌吸着力が小さく有効態ホウ素が欠乏している。一般に植物は土壌の有効態ホウ素が1.0mg/kg、水稲は水溶性ホウ素が10mg/kgを超えると過剰症が発生しやすい。水稲のホウ素の過剰はホウ素質資材の多用、メッキ・塗装関連の廃液の流入などで発生する場合が多く、過剰症は葉先の褐変や白斑が見られ、しだいに葉身全体に白化症が進む。対策としては多量に灌水しホウ素を流亡させる。
亜鉛(Zn)
土壌中の亜鉛の存在は土壌鉱物に結晶態として存在する。また植物残渣、腐植物質に有機態として、粘土粒子の表面に交換態・水溶態等の形態で存在するが多くは不溶態のZnS、Zn(OH)2、ZnCO3として存在する。土壌中の亜鉛の可給性は土壌のpH(酸性土壌では可溶化、中性~アルカリで不可給態化)、リン酸の多用(難溶性の化合物)、鉄やアルミニウム、マンガンなど酸化物による亜鉛の吸着(吸収抑制)、水田土壌の立地条件(干拓田は土壌の還元下で硫化亜鉛の生成で欠乏症、亜鉛鉱山や工場から排水の流入による過剰症)、亜鉛欠乏土壌(蛇紋岩、かんらん岩を母材とした古生層土壌)で異なる。水稲への吸収は二価のZn2+イオン、pHの高い土壌では一価の陽イオン(ZnOH+)として吸収され、遊離亜鉛として導管を通じて茎葉部の分裂組織に移行し、細胞内にタンパク質との複合体で存在する。亜鉛の生理作用はタンパク質の合成過程、植物成長ホルモン(オーキシン)の生合成に関与し不足すると稈や葉身の伸長抑制・分げつ数の減少や赤枯れ症(生理障害)、生育の軟弱・倒伏、不稔粒の増加など複数の症状がみられる。水稲は亜鉛に対する感受性が高く、土壌中の亜鉛濃度15mg/kg以下で欠乏症が見られる。また、酸性硫酸塩土壌は亜鉛含量が低く、亜鉛欠乏が発生しやすい。応急的な対策として硫酸亜鉛の施用、表面散布で改善効果が見られる。一方、工鉱生産に伴う汚染による亜鉛の過剰障害は生育の初期過程で現れ、新葉の葉脈間のクロロシスが見られる。地上部よりも根の障害(分岐根多、獅子尾状)として現れる。
- 赤枯れ症には三つのタイプがある。
- 赤枯れⅠ型:鉄過剰症(排水不良の砂質土壌、黒泥土、酸性硫酸塩土壌で発生「Bronzing」)
- 赤枯れⅡ型:亜鉛欠乏症(土壌の亜鉛絶対量の不足、高pH土壌・排水不良で発生)
- 赤枯れⅢ型:ヨウ素過剰症(畑地の水田化、土壌有機物の分解・土壌の還元によって可溶化するヨウ素I-1の過剰吸収)
モリブデン(Mo)
モリブデンは鉱物中にはMoS2として存在し、自然界では酸化された難溶性の6価のモリブデン(MoO3)として存在する。一般にモリブデンの溶解度は小さく、土壌中には0.1~6.0mg/kg存在し濃度は土壌によって大きく異なる。土壌中のモリブデンはpH依存性が高く、pH5~6以上はMoO42- イオンの水溶性として溶解度を増す。それ以下ではHMoO4–イオンの交換態として鉄(Fe)やアルミニウム(Al)の酸化物あるいは有機物と結合、さらに低酸性域では分子状のH2MoO4として不可給態となる。欠乏症は酸性土壌で発生し、過剰症はアルカリ側で発生する。水稲はモリブデン酸イオン(MoO42-)の形で吸収され導管を移動する。モリブデンは他の必須元素と比較して最も要求量の少ない元素である。生体内の硝酸還元酵素の構成元素として重要な元素であり、リン酸代謝、光合成作用・呼吸作用に係る。欠乏すると作物体内に硝酸の蓄積、光合成の低下が見られる。一般に植物は体内のモリブデン含量が0.1ppm以下で欠乏症を発生すると言われており、水稲(わら)のモリブデン含量は少なく0.2~0.7ppmの範囲が大部分である。
生育ステージ別作物生理
種子
胚乳が受精して発達したものが種子である。稲の種子はもみ(包被組織)の外頴と内頴の二枚の殻で包まれその中に胚と胚乳があり、包被組織を含め種子と呼んでいる。胚は芽を出すところで幼芽と幼根からなり、胚乳は主にデンプン粒組織で満たされ、胚の発達に必要な養分が貯えられている。胚乳の最外部はタンパク質と脂肪の集積した糊紛層があり、発芽時に種子内の貯蔵物質を胚に供給する役割をもつ。種子は稲の生活環の中で形成される。受精が行われ成熟後に親株から離れ、新しい場所に定着して胚が生長して再び新しい稲株へと成長する。種子の親遺伝子を次代に伝える重要な役割をもっている。水稲は土壌中に多いケイ酸を出穂期以降も積極的に吸収し、もみ殻のケイ酸濃度は10%以上に達する。これは自らが高温や乾燥、細菌・害虫から種子を守る防衛機能として重要な働きがある。湿地環境下に適応した稲特有な獲得形質である。一般に種子は親株の収穫直後には発芽が抑制される。この現象は休眠と呼ばれている。また種子の寿命(老化)は親株で種子が成熟した時から始まる。種子の休眠と寿命に最も影響する因子は水分と温度である。したがって、種子の貯蔵は収穫後ただちに開始されることが望ましい。収穫翌年に使用する種子は脱穀・調整後に種子の水分含有率を11~14%まで乾燥させて、室内冷暗所に密封保管して貯蔵する。発芽率の高い種もみの選別は塩水選を行う。比重1.06の塩水に籾を浸し沈んだ籾(胚乳に栄養分が詰まった良質な籾)を取り上げて、真水で塩分を洗い流す。
苗
乾燥状態にある種子の発芽には、まず水を必要とする。胚が水で満たされると発芽の活動を開始し、次に胚に接した部分の胚乳が水を吸収して胚乳内貯蔵養分の分解物が発芽後の芽や根の生長に供給される(浸種という)。浸種の日数は水温によって異なり、積算温度100℃が目安(水温×日数)となる。発芽には酸素を多く必要とし、浸種中は新鮮な水の入れ替えなどで十分に酸素を供給する。浸種時の酸素不足は幼芽が徒長し幼根(種子根)の発育が阻害される。酸素供給機能が付いた催芽器を使用する場合は浸種から発芽までは一日以内とされている。十分に吸水した催芽籾(ハト胸程度)を床土(軟らかく通気性のある育苗土)に播種して、育苗器(サーモスタットによる温度管理、30~32℃)で発芽の均一化を図る。第一葉展開まで2日程度を育苗器内で育成、その後は20~25℃で緑化(数日間)させて、屋外で日光と外気温にならす(硬化)。発育期の第二葉の伸長期までは胚乳の養分に依存し、第三葉期(離乳期:胚乳の養分がなくなる時期)以降は根の養水分の吸収、葉の同化作用で栄養的に独立して自ら生長を開始する(独立栄養)。離乳期(四葉期まで)は分げつが開始される重要な時期である。温度の急激上昇、深水(酸素不足、根のいたみ)、床土の窒素(過多)では葉鞘の伸長生長が促進され(徒長軟弱)、下位節の分げつが抑制される。育苗期(苗代期)の分げつは有効穂となる率が高いため、短期間に苗を生長させない管理(苗の徒長防止、酸素不足)が重要である。育苗箱を使って植えられる機械移植の苗は葉令によって稚苗(葉令3~3.5)と中苗(葉令4~5.5)に区分されている。
葉
イネの葉は葉身と葉鞘にわかれ、これに葉耳と葉舌がついている。葉身は葉のはたらきで最も重要な光合成と蒸散を行う器官である。さらに生長各部位へ体内養分を供給する器官でもある。葉身の炭水化物は大部分が細胞壁を構成するへミセルロース類でデンプンは少なく可溶性の糖類濃度を高め、同化産物の輸送器官として機能する。葉鞘は茎をつつみ地上部の保護と支持の他、葉身からの同化産物の一時的な貯留を担う。葉耳は葉身と葉鞘の移行部分にあり、幅広で肥厚し風など葉にかかる力から葉身を支える。茎と接した葉鞘の先端は薄い膜状(葉舌)となり、茎の間に水が入るのを防ぐ。主幹の葉数は14~15枚(葉齢)が茎の下位節から左右交互(互葉)に出る。葉の生長は気温に大きく影響されるが、葉齢はイネの生育ステージの把握と栽培管理を行う上で重要である。3~4葉は炭水化物を根に送り新根と根の伸長を促す(活着)、4~8葉は分げつの確保に、8~12葉は穂の大きさ(粒数)、12~止葉(15葉)は登熟に関与する。中干し作業は7~8葉を目安に行い、穂肥の時期は11~12葉頃に幼穂の発育を確認して行う(幼穂形成期:幼穂長が1.5~2mm)。また、つなぎ肥や穂肥の適期はイネの形質の他に、葉鞘のヨードデンプン反応やアスパラギンテストを利用して追肥の適期を知ることができる。葉の光合成能力と働きは葉の着生位置で大きく異なる。上位葉から3~4枚は 光合成活動が最も盛んでこの葉が中心(活動中心葉、Physiological Active Center Leaf)となり、新しい器官の発達とイネの生育を支える。活動中心葉で同化されたデンプンは分げつ期には伸長中の葉に、幼穂形成期は幼穂の発育に、開花期以降は穂に移行する。活動中心葉は生育に伴って上位葉に移動し、下位葉(古い葉)の同化産物は根に移行する割合が高い。止葉は最後まで活動中心葉として働き穂の登熟に貢献する。籾の登熟には止葉を含め上位3~4枚の葉が大切である。古葉の葉身はしだいに葉緑素の窒素を失い光合成能が減退する。葉身の黄化が進むと新しい器官へ養分は転流し役割を終える。
- ヨードデンプン反応:主幹の最上位展開葉から下に数えて3枚目の葉鞘を押しつぶし、2倍に希釈したヨード・ヨードカリ液(ヨウ化カリウム2gを100mlの水に溶かし、ヨウ素1gを加えてよく混合する。褐色ビンに保存する)に一分間浸漬、葉鞘全長と染色部分を計測(4~8本平均染色率が55%以上は標準量の追肥が可能、50%以下は控える)
- アスパラギンテスト:アスパラギンは体内窒素濃度が高いと現れ、下降とともに消失する。穂肥の良否判定の指標となる。主茎葉の最上位葉と最下位葉をそれぞれ70%アルコール溶液に浸し、乳鉢で粉砕、冷暗所に一晩、上澄み液を減圧濃縮、ペーパークロマト用ろ紙に原点、展開溶媒液で2次展開後、ニンヒドリンで呈色、アスパラギンの存在は灰色に染まる(操作が煩雑なため、現場では行われていない)
稈
イネの茎は稈といい、稈は節と節間を基本単位として構成され葉鞘に包まれている。イネの稈(茎)は外からは穂を支える穂軸節間を除くと普通には見られない。節と節の間は稈基部に重なりあって縦列している。生殖成長期に入ると下位節の節間から伸長が始まり、出穂開花後2~3日で節間の伸長は終わる。節間は上から順に第1節間~第6節間と数え、それ以下の節間は伸長しない。節にはイネの生長に応じて新たな葉、分げつ、新根、穂の各器官を生み出す分裂細胞がある。稈のはたらきはイネ体を支える支持機能、根が吸収した養水分と葉で同化された光合成産物を各器官に運ぶ通導機能、葉で同化された光合成生産物の貯留機能をもつ。窒素栄養は各器官の生長に敏感に反応し、稈の伸長に関しては下位節間が伸長する時期、出穂前40日前後の窒素の追肥や出穂前20~30日に窒素が多くあると第5節、第6節間が伸びて倒伏しやすくなる。穂肥の時期は節間長3.5cm以下(幼穂長1.5~2mm,幼穂形成期)が安全である。葉の同化生産物はショ糖で転流しデンプンとして葉鞘に貯えられ、稈の伸長が始まると稈に蓄積される。穂の登熟が始まると稈のデンプンはただちに穂に移行する。稈のデンプン貯蔵は一時的であるが、貯蔵器官としての役割は大きい。乳熟期は稈のデンプンが極端に低下し、同時に根の活力に必要な糖類の根への移行が減少する。フェーン現象に重なると株全体が強度に脱水する青枯症(白穂の発生)の危険性が高まる。
分蘖
幹の葉鞘基部にある節から芽をだし新たに増えた茎を分げつという。茎葉は分げつ子の集合体であり、各分げつ子は葉、稈、根、穂の器官からなる。主幹の葉が出葉した時に、その3枚目の下にある節部から新たな分げつが規則正しく発生する。主幹が止葉になると分げつ葉もすべて止葉になる。分げつの発生は栽植密度、移植本数、気温、栄養状態で変化するが、通常は活着後、主稈の5葉目の抽出時に一つ目の分げつが発生する。主幹から直接でた分げつを第一次分げつとよび、第一次分げつの節から第二次分げつがでる。さらに第三次分げつと枝分かれの形で増えていく。一般には一次~二次分げつを主体として、三次分げつ以上の高次分げつといい、高節位分げつほど無効分げつになりやすい。また、田植えの時期、活着の遅れ、分げつ間の養分状態、光の競合など環境不良が原因で生育の停滞や枯死など、その多くは無効分げつ(穂にならない)となる。一般に田植え後30日間で必要数量の茎数を確保する必要がある。イネの分げつにはいくつかのステージがあり、最高分げつ期(分つが最も多くなる時期)、分げつ最盛期(最高分げつ期よりさかのぼって、2週間以内)、有効茎歩合(最高分げつ期の茎数に対する有効茎数「有効穂数」の割合)である。一株から20本程度が分げつするため、一株の植え付け本数が増えると株間の緩衝で下位節の分げつが抑制(休眠)され、高位節から分げつする弱小茎が増える。弱小茎の多くは穂数には結びつかない。同様なことは窒素の多肥にも言える。分げつ数は茎の窒素含量に左右されるので、基肥・つなぎ肥に窒素を多く施用すると分げつは増えるが軟弱な茎となり無効分げつを高める。イネが吸収する窒素の60~70%は地力にまかなわれるため、中ぼし等で土壌窒素の発現が多い肥沃な水田は倒伏を招く。一般に基肥量はその地区の経験によっておおよその量が知られている。近年、各種の緩効性肥料が流通している。窒素の溶出タイプを理解した上での活用が望まれる。
根
イネの根群は種もみから発生する一本の種子根と基部の茎葉節から発生する冠根、それらから発生する側根によって構成され、ひげ根状の根系を形成する。根は葉、節、分げつ芽、節間を発生上の一つの単位(ユニット)として扱われる。根の発生は出葉と密接な関係があり、ある節の冠根(一次根)は3節上の葉と一緒に伸びる。発芽後の養水分の吸収は種子根が担い、冠根が発生する4葉期以降は種子根に代わって冠根に移行し、種子根は次第に機能を失う。根の伸長、養水分の吸収は地上部からの炭水化物の供給が必要であり、供給源は葉鞘のデンプンである。上位葉から3枚目の活動中心葉は葉鞘のデンプン蓄積量が最も大きく、その一葉下の節位から発生する冠根と維管束でつながっている。このように活動中心葉に関連する節からは発根量とともに根の活力も高い。活動中心葉は生育とともに上位葉に移行し、発根節も上の節に移行する。このように根の発生は下位節から上位節へと移行し、活着期ころの根は下方へ伸び、生育が進むと横に伸び、幼穂形成期ころに発生した根は地上と水平に土壌表面に網状に伸びる一次根より構成されるうわ根(ルートマット)が形成される。イネの発根力と伸長は同化が盛んな最高分げつ期に見られ、生殖生長期に移行すると根の養水分の吸収力(活力)は主に下位葉からの同化産物に支えられている。出穂期以降は活動中心葉からの炭水化物の流れが穂に集中するため、根への糖濃度が減少すると細胞の浸透圧が低下し水分の吸収は全体に低下していく。このように、出穂期には機能・形態をことにする根群が完成する。その根群には古い根(1次根)と新根及び分岐根(2次根、3次根)、深い根、浅い根が混在しており、それぞれ重要な役割を果たしている。出穂前の古い根は養水分のエネルギー源である糖含量も高く、吸収面積も大きく、地上部の生育に必要な多くの養水分は古い根から供給されている。新根は養水分の吸収の他に、強い酸化力をもち根圏環境の改善により古い根の養水分吸収を支えている。深い根は水田から溶脱しやすい鉄、マンガン、ケイ素の吸収に、浅い根(うわ根)は黄熟期から完熟期に至るまで養水分の吸収を担い上位葉の光合成能を維持し籾生産に貢献している。根の酸化力に関しては、イネの根は葉から酸素を供給する通気組織が発達し、茎葉から送られてきた酸素を利用して酸素のない湛水下でも呼吸をして養水分の吸収を行うことができる。出穂開花期以降の籾生産にはこの時期の光合成量が特に重要である。葉の光合成能は葉の水分含量が関与しているため、根の活力を維持するには間断灌漑よりも飽水灌漑が有効とされ、下葉から根へのデンプンの流れを維持することができる。
- 飽水灌漑(飽水管理):根が常に吸水可能な状態を保ち、田面が浸る程度(足跡、溝に水が残っている状態)になったら入水して自然落水、これを繰り返す。
- 間断灌漑:足跡の水がなくなったら入水する。中干しから幼穂形成期の期間。
出穂と開花
出穂の時期は品種の特性(感光性、感温性)、気温・日長、地域によって大きく異なる。ここではイネの形質について述べる。出穂とは葉鞘に包まれている幼穂の生長とその節(穂首)の節間が同時に伸長して押し上げられ、止葉の葉舌から抽現することをいう。出穂の初めを出穂開始、株の40~50%の出穂を出穂期、80%以上の出穂を穂揃期という。主幹の穂が最初に現れ、第一次分げつ、第二次分げつと続く。穂は穂首、第一次枝梗、第二次枝梗、頴花(籾)で構成されている。その幼穂の形成過程は最高分げつ期の出穂前32日頃に穂首になる節が生まれ、穂の形成が始まる(穂首分化期)、出穂前29日頃(頴花分化期)に穂首の節から第一次枝梗が分化し、次に第二次枝梗の分化とつづく。二次枝梗の分化が終わると各枝梗の上に頴花(籾)の形成がはじまる。籾は炭水化物の貯蔵器官としての役割をもち、形態的には籾殻と玄米(頴花)に分かれる。枝梗は通導組織としての役割をもつ。頴花の発生時期が出穂25日前の幼穂形成期である。頴花にはおしべ、めしべ、花糸、胚乳ができ生殖細胞が発達する減数分裂期に入る(出穂前12日頃)。幼穂形成期~減数分裂期は環境の影響を受けやすく、気温の低下(17℃以下)や窒素の不足、炭水化物の供給が不足するといったん分化した枝梗や頴花が退化し籾数が減少する。新鮮な有機物やC/N比の高い有機物を施用した水田では還元下(Eh-200mV以下)で生成される有機酸が枝梗の分化を阻害、退化した異常穂(Straight head)が発生する。一穂籾数が決定される重要な時期である。一般に高温は出穂を促し低温は遅らせるが、開花の適温は30℃で開花の時刻は晴天日で10~12時、開花時間は1.5~2時間、曇天日は開花が遅れる。開花時は穂の水分要求が高く、強風やフェ-ン現象で穂が乾燥すると不稔粒が発生する。また開花時の気温が17℃以下、35℃以上では不稔障害が発生する。開花後の7~10日後には胚乳の組織が完了しデンプンの蓄積が始まる。
登熟
出穂開花後にもみが発育し肥大することを登熟といい、籾が充実する成熟期までの期間を登熟期という。登熟期には各器官の通導組織が活発となり茎葉を構成していた成分の多くは穂へ転流する。種子へのデンプン集積は短期間に行われるが、デンプンの移行は上位の枝梗から始まり順に下方へ進み、胚乳への蓄積は中心部から縦方向に進み次第に厚みが増して充実する。穂(米粒)のデンプンの20~40%は出葉前の葉鞘、茎から移行する貯蔵デンプンが占め、70%前後が出穂後の光合成に由来する。出穂後の光合成は籾の生産にとって極めて重要である。籾のデンプン量は開花20~25日頃に最大に達し粒が完成する。40~50日でもみの充実が完了(糊熟期)する。出穂20日頃は組織の呼吸や養水分吸収のエネルギーとなる体内の貯蔵デンプンが低下し、根、茎、葉の老化が進行する。一方、もみ生産には残り7割近くのデンプンを登熟期の光合成に依存する。止葉を含めた活動中心葉の活力の維持が特に重要視される。そのためには出穂期後の同化量の必要性を意識して、過繁茂をさけ、必要な一穂籾数の確保など上記した苗、葉、稈、分げつの各器官が調和した適正な栽培管理が求められる。出穂期以降は飽水管理など水管理も重要である。登熟期の高温障害として玄米の白未熟粒がある。白未熟粒は出穂後20日間の平均気温が26~27℃以上で多発する。未熟粒の発生原因は直接的には登熟期の高温であるが、胚乳へのデンプンの蓄積過程と密接に関係している。まず、胚乳へのデンプン蓄積過程は胚乳の中心部、胚乳周辺部、腹側、背側、基部の順で蓄積する。どの部位に白濁がみられるかで障害を受けた時期を推察できる。玄米中心部の乳白粒は籾数が過剰な時に籾への配分が減少して発生する。登熟期に窒素栄養が不足するとデンプン量の低下や蓄積時に空隙が発生し背白や基白が増える。登熟期の早期落水は水分不足による光合成能が途中で低下することで、周辺部が白質化する死米が発生する。登熟期の水管理と玄米品質に関して、窒素栄養不足時の早期落水は玄米の胴割れを助長する。土壌中のカドミウムは酸化状態では可溶化され、この時期の早期落水は玄米中の濃度を最も高めるなど注意が必要である。
収量構成要素
イネの収量は穂数、一穂籾数、登熟歩合、粒重の4要素から構成されている。4要素はイネの収量形成過程でそれぞれ独立しているが、収量は4要素が相互に係わりをもって決定される。穂数は一株の穂数に栽植密度を掛けて、単位面積当たりであらわす。穂数は最高分げつ期までに決まるため苗から分げつ期の栽培管理が重要である。穂数の確保には健苗(葉鞘の短い苗)、浅植え(下位節からの分げつを確保)、その後の施肥管理(窒素の過剰を避ける)、水管理(有効茎確保後「太い茎の本数」、すみやかに中干しする。中干の時期は目標穂数80%を確保した時)を適切に行う。籾数は多くの一穂粒数を数え、平均値であらわす。穂首分化期(出穂32日前)から減数分裂の終わり(出穂前7日、穂ばらみ期)に決定される。枝梗は頴花分化期(出穂前24日)前後の環境条件、籾数は幼穂形成期から減数分裂期の環境条件(光量、栄養不足による枝梗・頴葉の退化など)がもっとも影響する。登熟歩合は籾総数のうち何割が精玄米になったかを示し、比重1.06の塩水に籾を浸し全籾数に対する沈んだ籾数の割合であらわす。登熟歩合の低下は開花期の低温(20℃以下)、強風、過湿(長雨)、高温(乾燥)などで不稔籾の発生、出穂前のデンプン蓄積量の不足と出穂期後の光合成能の低下による発育停止などが影響する。さらに籾の数、イネの姿勢(上位2~3葉が伸長し受光態勢の不良)、籾/わら比(小さい)も登熟歩合の低下に大きく影響する。籾/わら比は生殖生長段階の乾物生産量と栄養生長の乾物生産量の比であり、籾/わら比の高いイネは登熟期における乾物生産能が高いといえる。その中で登熟歩合が最も影響を受けやすい時期は減数分裂期から出穂15日間で、この間に生成される光合成量である。玄米粒重は玄米1000粒の重さであらわす。穂数×一穂籾数が面積当たりの総籾数、これに登熟歩合を掛けると面積当たりの登熟籾数、さらに平均一粒重を掛けると精玄米収量が求められる。計算上の収量は実際の収量に適合しない場面が見られるので、各要素については平均的な数値を用いる。
多収栽培技術
これまでの項目は下記の書籍を引用してイネの形質、器官の発育、はたらきを中心に紹介してきた。各項目とも内容は断片的で薄弱ではあるが、日本の多くの専門家よって解明された情報でもある。イネの多収への挑戦は苗づくりから始まる。要点をあげると、健苗の管理は発芽・育苗期の酸素供給、厚撒き・徒長の防止、温度管理、水管理に注意して、発根力の高い苗を育てる、イネ体はその多くが有機物でありタンパク質と炭水化物が主体である。そのタンパク質は移植~穂首分化期の栄養生長段階で多くが作られ、分げつの生長に使われる。籾/わら比のわらの決定期でもあり、出穂期前後の受光態勢を考えて栽植密度により過剰な生育を抑える。必要な有効茎の確保と受光態勢の改善、倒伏防止を考慮した施肥・水管理を適切に行う。この時期に窒素の吸収を制限することで受光態勢の改善、登熟歩合向上の基礎をつくる。根の健全化には中干しを行う。幼穂形成期~出穂期の生殖生長期は炭水化物代謝が中心となり、籾数の決定、デンプンを葉鞘・稈に貯える最も重要な時期である。この時期に葉の色、繁茂の程度、幼穂長(1.5~2mm)、葉鞘のヨードデンプン反応を行い追肥の時期・量を決定する。また1000粒重に影響する頴花の大きさはこの時期の栄養状態で決まる。中干し後、幼穂形成期までの期間は間断灌漑として根の健全化を図る。出穂期~成熟期(登熟期)はデンプンの生産が主体になる。この時期には葉の生長はなく、生理的には葉の老化が進み光合成能が低下する。一方、籾の充実、1000粒重の確保に必要なデンプン量の7割はこの時期の止葉を含めた上位葉の光合成能に頼っている。光合成の向上には出穂後の窒素栄養、青葉数、受光態勢、後期まで葉の水分含量を高く維持する管理が求められる。養分では窒素不足、ケイ酸の施用(受光態勢の改善、蒸散の抑制)、水管理は飽水管理を登熟後期まで継続する。
執筆者
日高 伸
一般財団法人日本土壌協会 理事。秋田県立大学 生物資源科学部 元教授。埼玉県農林総合研究センター 水田農業研究所 元室長。
参考文献
松島省三:稲作の改善と技術 1973(養賢堂)
村山 登:報酬漸減法則の克服1982(養賢堂)
岡島秀夫:イネの栄養生理 1962 (農文協)
石塚喜明・田中 明:水稲の栄養生理1966(養賢堂)
松尾孝嶺:稲学大成 生理編 1990(農文協)
松尾孝嶺:稲学大成 形態編 1990(農文協)
農文協編:イネつくりの基礎 1973(農文協)
農文協編:よくわかるイネの生理と栽培 2018(農文協)
島崎佳郎:稲作技術図鑑,生育と栄養 1969(農業技術普及会)
中国農業大学出版社(2009):中国土壌-作物、中微量元素研究現状和展望



