小麦
栽培の基礎知識
施肥、ベストプラクティス、該当製品、試験事例などについて知っておくべきこと
小麦栽培に関するアドバイス (Triticum spp.)
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秋播き小麦に最適な pH は 6.5
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pHが5.5を下回ると、主にP、Mo、Ca欠乏の影響を受けやすくなるため、殆どの品種で収量が著しく低下します。
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pHが7.5を超えると、B、Cu、Fe、Mn、P、Znが欠乏しやすくなります。小麦は、非常に軽い砂質土壌や泥炭質の土壌を除けば、ほぼすべての土壌タイプで栽培可能です。
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冬小麦は温帯地域(ヨーロッパ、アジア、アメリカ、北緯60度までの国々)で広く栽培されており、一部の熱帯・亜熱帯地域では標高の高い場所でも栽培されています。
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開花、着粒、穀粒形成、成熟に最も適した温度は20~25℃。
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小麦は典型的な長日植物です。
適正に出芽した秋まき小麦
圃場での秋まき小麦の穂
養分要求量
推定養分吸収量(kg/10a):
栽培種 | 収量 | N | P2O5 | K2O | |
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kg/10a | kg/10a | kg/10a | kg/10a | ||
秋播き小麦 | 地上部* (DM) | 1370 | 18.7 | 5.5 | 25.2 |
秋播き小麦 | 穀粒 | 670 | 13.0 | 3.9 | 5.1 |
春播き小麦 | 地上部* (DM) | 900 | 12.9 | 5.8 | 12.5 |
春播き小麦 | 穀粒 | 450 | 10.0 | 5.0 | 2.5 |
*地上部全体の植物体
Source: Adapted from Aigner et al., 1988
小麦の1作期における養分吸収の動態
栄養素の役割
キーとなるパラメーター | N | P2O5 | K2O | MgO | CaO | SO3 |
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収量 | +++ | + | ++ | + | + | + |
タンパク質含有量 | +++ | + | ++ | + | +++ | |
栄養生長 | +++ | + | + | ++ | + | + |
根系発達 | + | +++ | + | ++ |
+ = 改善
– = 減少
+/- = 異なる結果、適用される栄養素の割合による
Source: IPI bulletin – Cereals
Source: Whinter wheat – Crop advice sheet (Agronomy Campus)
養分欠乏症
窒素
株全体が淡緑色から黄色となり、下位葉からクロロシス(黄色化)が始まり、欠乏症状が強まるにつれて上位葉に移行します。株の主茎はとがり、生育は全体的に遅延します。
リン酸
リン酸欠乏の小麦株は、正常な株よりも葉色が濃く、まず裏側が紫色に変色し、その後全体が紫色化します。欠乏症状が深刻になると、葉の先端が枯れ、主茎・分げつは細く短く、成熟が遅延します。また、リン酸欠乏の株は分げつ数も低下します。
カリウム
加里欠乏症は、はじめに下位葉のクロロシスとして現れ、欠乏症が強まるにつれて上位葉へ移行します。葉は最終的に筋状になり、葉縁に沿って焦げたような外観になります。また、葉身全体にクロロシスが発生することもあり、一部の早熟な多収品種の上位葉でも、欠乏症状が発生することがあります。欠乏症を示す株の植勢は弱く、根詰まりを起こしやすいです。
硫黄
症状は窒素欠乏症と似ていますが、上位葉を含む株全体のクロロシスが発生します。硫黄欠乏症は、砂質で水はけがよく、有機物の少ない土壌で発生しやすいです。
カルシウム
石灰欠乏症は(小麦のような)小粒穀物では非常にまれです。株は著しく生育不良となり、新葉からはゼラチン状の粘着物質が滲出し、新葉同士がくっつく症状が見られます。石灰欠乏症は pH が 5.2 以下で土壌中のカルシウムが低いほど多発するため、通常、石灰欠乏症状よりも先に、アルミニウムやマンガンの過剰症が現れます。
マグネシウム
一般的に、苦土欠乏は pH が約 5.2 以下の土壌で見られます。また、小麦は冷涼で湿潤な春に十分な苦土を吸収することができません。
亜鉛
穀物の 亜鉛欠乏症は、一般的に生育初期で草丈 10cm 程度のときに現れ、まず上位葉に黄色い筋が入り、葉先に白色・黄色を帯びます。また、白色斑点が葉身や葉縁に現れることも多く、葉縁辺の一部が枯れることもあります。株全体が生育不良になることもしばしばです。
ホウ素
新梢は枯死し、葉は先端から枯れ、上位葉は巻いたままの状態となります(石灰欠乏症と同様) 。ホウ素欠乏株は穂が非常に細く、穀物収量が大幅に減少します。
銅
銅欠乏は上位葉に現れやすい。葉のねじれや葉の白色部位の発生、深刻な収量低下などが見られる。銅欠乏症は、土壌由来の銅利用率の低さ、または土壌全体の銅含量の低さが原因である可能性が高く、軽くて酸性の土壌、土壌有機物の少ない土壌、花崗岩の母材、乾燥土壌で問題となります。
鉄
鉄欠乏症は、上位葉の葉脈間クロロシスとして始まり、植物体全体へと展開していき、最終的にクロロシス葉の枯死に繋がります。
マンガン
生育初期の段階では、上位葉に軽度のクロロシスが現れます。さらにひどくなると、成熟した葉に網目状の葉脈が見られ、その後、葉は葉脈に沿って褐色灰色の壊死を引き起こします。クロロシスの斑点模様は、主に葉の付け根に集中します。
Source: https://vikaspedia.in
小麦の抵抗性に及ぼす栄養素の影響
病害 | 病原菌 | 抵抗性の向上 | 抵抗性の低下 |
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根部: | |||
全ての病害 | Gaeumannomyces graminis var. tritici | N-NH4, Mn, Cu, Cl | N-NO3 |
赤カビ病 | Fusarium ssp. | Zn, Cl | K |
葉身: | |||
うどんこ病 | Erysiphe graminis | K, S, Mn | N, Zn |
黒さび病 | Puccinia graminis | K, S | |
赤さび病 | Puccinia recondite f. sp. Tritici | K, Mn, Cl | Cu |
葉枯病 | Septoria tritici | K, Cl | P |
Source: Datnoff L., Elmer W., Huber D., 2007: Mineral nutrition and plant disease, ASP Press, St. Paul, USA, 278 s.