大豆の生物学的窒素固定を促進するには?

生物学的窒素固定(BNF)の能力を十分に発揮させるには?

1月 1, 2024
7 分

大豆栽培における生物学的窒素固定(Biological Nitrogen Fixation、以下「BNF」とします)は、ブラディリゾビウム属の細菌(根粒菌)と大豆植物体との共生によって引き起こされます。植物体と根粒菌の間のこのプロセスは、生育初期で根にコブ状の構造(根粒)が形成されることで観察することができ、V4ステージ(本葉第4葉展開時)以降に完全に共生が確立されます。
この時点で、根粒形成能力を評価することが非常に重要です。大豆の根には少なくとも10~15個/株の根粒が付き、その大きさは3~8mmで、菌が生きていて呼吸していることを示す赤い色をしていなければなりません(Câmara, 2014)。

 

表1:BNFにおける栄養素の役割、欠乏による影響

栄養素BNFにおける役割欠乏が根粒に及ぼす影響
リン酸ATPの産生と消費に直接関係する。根粒とBNFが減り、窒素欠乏を引き起こす。
カリウム光合成や呼吸における様々な酵素の活性化因子。BNF低下に伴う根粒乾燥重量の減少。
カルシウム根の発達と細胞内シグナル伝達物質への作用。根の表面積減少による根粒の減少。
マグネシウムクロロフィルの構成成分であり、直接的な関係。BNF低下に伴う、窒素欠乏。
硫黄Nodファクターという共生シグナル物質に作用する二次代謝産物の構成成分。根粒形成の遅延と根粒減少。
ホウ素細胞分裂。根粒の小型化。
コバルトレグヘモグロビンの前駆体であるコバラミン (B12) の成分。根粒着生の遅延と根粒の小型化。
まだよく知られていない。BNF低下。
ニトロゲナーゼ鉄タンパク質の構成成分。根粒着生の遅延、根粒減少、BNF低下。
モリブデンニトロゲナーゼ鉄モリブデンタンパク質の構成成分。無効な根粒と窒素欠乏。

ご存知でしたか?

基肥施用や葉面散布(つまり、大量の化石燃料を使い、工業的窒素固定により得られる窒素肥料)無しでも、高い収量を得ることは可能です。大豆1俵(=60kg)につき、植物体は約4.9kgの窒素を必要とするので、8俵/10a(=480kg)の収量を想定すると、39kg/10aの窒素を蓄積することになります。このプロセスは、養分と、根粒中の根粒菌をよく発達するように適した条件が揃えば可能です(表1)。

 

図1. 10株の根粒総数を折れ線グラフで表した、大豆の生育ステージにおける根粒数の推移。出典:Câmara、2014年

BNFが効率的に行われるためには、土壌の肥沃度がバランスよく保たれ、BNFに不可欠な栄養素がより多く利用できるようになっていなければなりません。このように、各栄養素は、表1に示すように、BNFに直接的または間接的に関連する特定の役割を担っています。

大豆の生育サイクル全体を通して、根粒は絶えず形成・枯死を繰り返しており、この更新現象は極めてダイナミックで、生理的影響に敏感に反応します。したがって、種子処理(ST)で行われる根粒菌接種に加えて、栄養的・生理的刺激が、大豆の窒素需要の最初のピークであるR1ステージ(開花開始時)に窒素を供給する根粒形成を左右します。一方、V4ステージ(本葉第4葉展開時)における2回目の栄養的・生理的刺激は、R5.3ステージ(子実肥大期)の窒素需要を満たす根粒の形成に影響を与えるはずです(図1)。

BNFを計算するために、我々は15N同位体を用いた高度な技術を用い、大豆植物体中のBNFの割合を直接計算しました。そのために、15N同位体自然存在比を用いました。この手法は、大気中の15Nと土壌中の15Nの差に基づいており、土壌中の15Nはわずかに高くなっています。こうして得られた大豆のN中の15N存在量は、土壌窒素源(無機化)と大気窒素(BNF経由)の比率となります。この手法の詳細は、Lavres et al., 2016に掲載されています。

余談

2019年CESB(ブラジル大豆戦略委員会)主催の多収全国チャンピオンの生産者マウリシオ・デ・ボルトリ(Maurício De Bortolli)氏(ブラジル連邦共和国リオグランデドスル州クルスアルタ、オーロラ・シード)は、窒素を施用することなく123.8俵/ha(=742kg/10a)の大豆を生産しました。同氏は、BNFプロセスを刺激するICLの技術、バランスのとれた栄養、ストレスの軽減、より良い花付きと子実肥大を実現するプログラムを採用していました。

 

図2. 圃場条件下のR5ステージ(着莢期)に評価した大豆の15N同位体自然存在比を用いて推定した生物学的窒素固定率(%BNF)。

当社の製品開発部門が大豆のBNFに与える直接的な影響を評価するため、自社研究農場(イノベーションセンター)で上述の技術を用いた研究を実施しました。この試験には以下の処理区が設定されました: 対照区、BIOZ ネフライト区、BIOZ トパーズ区、BIOZ トパーズ+BIOZ ネフライト区。すべての処理区に根粒菌接種資材と殺菌剤を施用し、変動要因はBIOZ トパーズとBIOZ ネフライトの有無としました。

その結果、BIOZ トパーズ+BIOZ ネフライトの施用により、対照区と比較してBNFが33%増加したことを実証することができました(図2)。一般に、根粒の寿命は6~8週間です。作物の窒素需要曲線は根粒の寿命よりも長いため、根粒形成を促進するだけでなく、根粒の寿命と更新を促進することが不可欠です。このことを念頭に置いて、BIOZ ネフライトは、作物が最も要求の厳しい時期であるR5ステージ(図3)に、根粒の更新を助け、根粒活性を促進するために開発されたものです。BIOZ トパーズ+BIOZ ネフライトを施用した場合、対照区と比較して根粒数が20%増加し、根粒更新に影響を与えることが示されています(図3)。

 

 

図3. 大豆のステージV6ステージ(本葉第6葉展開時)およびR5ステージ(着莢期)における株当たりの根粒数を、種子処理剤(BIOZ トパーズ)および生理学的作用葉面散布剤(BIOZ ネフライト)をV4ステージ(本葉第4葉展開時)に施用した場合と比較したもの。

このことから、種子処理剤であるBIOZ トパーズ(15 mL/10a)を塗抹した効果は、大豆の発根だけでなくBNFも刺激し、根粒数を増加させ(図4)、作物の生育に寄与することがわかります。根粒の更新を促し、生殖成長期における窒素の需要に応えるため、V4ステージ(本葉第4葉展開時)にBIOZ ネフライト(30 g/10a)を葉面散布することの重要性がわかります。

この製品は、BNFプロセスの鍵となるニトロゲナーゼとヒドロゲナーゼ酵素の活性を高めます。また、窒素代謝に不可欠な酵素である硝酸還元酵素とウレアーゼも刺激します(Lavres et al, 2016)。さらに、オーキシンの前駆体であり、根系の成長を刺激し、根粒形成と更新を促進する生理学的作用のある化合物も含まれています。

 

図4. 上述の処理による実験で得られた根粒の新鮮重(g)(各処理区につき5株のデータ)。写真:GIL CÂMARA(2019)。

 

執筆と翻訳:

José Marcos Leite – ICLアメリカ・ド・スール、研究マネージャー

Robson Mauri – ICLアメリカ・ド・スール、技術開発マネージャー

Rafael Butke Baptista – ICLアメリカ・ド・スール、製品マネージャー

田畑正秀 – ICLグローイング・ソリューションズ、ビジネスリード日本・韓国・台湾

 

参考文献:

CÂMARA, G. M. S. Fixação Biológica de nitrogênio em soja. Informações agronômicas, n. 7, 2014.

HUNGRIA, M.; CAMPO, R.J.; MENDES, I.C. A importância do processo de fixação biológica do nitrogênio para a cultura da soja: componentes essenciais para a competitividade do produto brasileiro. Londrina: Embrapa Soja, 2007. 80p. (Embrapa Soja. Documentos, 283).

LAVRES, JOSÉ; CASTRO FRANCO, GUILHERME ; DE SOUSA CÂMARA, GIL M. . Soybean Seed Treatment with Nickel Improves Biological Nitrogen Fixation and Urease Activity. Frontiers in Environmental Science, v. 4, p. 1-11, 2016