第一リン酸カリウムが世界中で広く葉面散布に使われるようになった理由とは?

第一リン酸カリウム(MKP)の葉面散布にって得られる作物の収量と品質の向上が、露地栽培、果樹栽培、施設栽培で好まれる理由です。

1月 31, 2024
2分
Dr. Patricia Imas
ICL Agronomy content manager & commodities specialist

肥料の葉面散布は、露地、果樹園、施設栽培の生育環境において、植物に十分な栄養を供給する方法として定着しています。葉面散布用肥料の多くは窒素を含みますが、高品質の水溶性第一リン酸カリウム(MKP)のような、窒素を含まない肥料の価値を見過ごすべきではありません。

 

MKPとは?

MKPは、完全に水溶性のPK肥料で、りん酸をP2O5として52%、加里をK2Oとして34%含みます。MKPはこれらの植物栄養素のみで構成されているため、純度の高い肥料です。

MKPに含まれるリン(P)とカリウム(K)は、植物が速やかに取り込める形(K+とH2PO4-)になっています。また、MKPはナトリウムと塩化物を含まず、有害な元素を一切含んでいません。MKPは、窒素(N)を含まず、PとKのみで構成されているため、生産者は他の製品を使用して、窒素供給のバランスを独自に調整することもできます。

MKPの白い結晶状の粒は比較的溶解度が高いため、すぐに溶けて透明な水溶液になります。物理的には、非吸湿性で流動性があり、固結しにくいため、保管、取り扱い、施用が容易です。

一般的な肥料の中で、MKPは塩類指数が最も低いため、葉焼けや植害のリスクが少なく、非常に安全な葉面散布用肥料です。MKPの散布液はその緩衝作用によりpH5±0.5で安定し、P、K、その他の栄養素の吸収に最適な条件を作り出しています。

MKPは、こうした特性により、灌水同時施肥、養液栽培、葉面散布に最適です。

化学式KH2PO4
りん酸 (P2O5)52%
加里 (K2O)34%
pH (1%水溶液)4.5
EC (1 g/L)0.7 mS/cm
溶解度 (20°C)226 g/L

 

葉面散布における窒素成分ゼロの経済的な選択肢

葉面散布による施肥は、植物が必要とする栄養素を供給する方法として確立されています。葉面施肥とは、水溶性肥料を希釈した水溶液を霧状に作物の葉に散布することです。植物は葉やその他の器官を通して、イオンの形で栄養素を直接取り込みます。

窒素の葉面散布肥料としては尿素が最も一般的であり、カリウムの葉面散布には硝酸カリウムが適していることは知られていますが、これらはいずれも窒素を含んでいるため、特定の生育ステージや場面では望ましくない場合があります。経済的で入手しやすい肥料である MKP を用いれば、窒素とは別にリンとカリを 素早く供給できるので、葉面散布に最適です。

 

葉面からリンを供給する意義

リン(P)は、作物生産において、窒素に次いで、不足すると生育を制限する養分です。土壌中のリンの量は植物が必要とする量より多いものの、リンの大部分は不溶性化合物として固定されており、植物が利用できません。リンの葉面散布は、土壌中のリンの挙動に関す る問題を克服するもので、その結果、りん酸の葉面散布は、土壌中のリンの可給性に関係なく、りん酸が 最も必要とされる時期に、植物の要求を満たすことが できます。

 

亜りん酸塩ではりん酸塩を代替できない

肥料や農薬の市場において、亜リン酸(H3PO3)由来の亜りん 酸塩と、リン酸(H3PO4)由来のりん酸塩を混同してはいけません。亜りん酸塩は、前述したように植物の必須栄養素である元素リン(P)の化合物であり、亜りん酸塩は疫病菌に対する殺菌効果で知られる製品です。亜りん酸化合物を有効成分とする殺菌剤としては、バイエル社が販売する「アリエッティ」が有名です。

名称が似ているため誤解されやすいのですが、亜りん酸塩は植物のP栄養源としては利用できず、実際にはP欠乏植物の生育や代謝に悪影響を及ぼします。

施肥プログラムの一環として葉面散布が必要な場合は、りん酸塩が正しいP源であり、りん酸塩のなかでもMKPは、上記のように取り扱いが容易で、品質が高く、経済性が良く、即効性があるため、幅広い場面で葉面散布用のP源として信頼できる選択肢になります。

 

世界のMKP消費量

世界(中国を除く)では、毎年約30万トンのMKPが消費されています。その約半分は葉面散布に使用され、残りの半分は養液栽培や水溶性配合肥料と液体肥料の原料として使用されています。MKPが使用できる作物の範囲が広いことは、葉面散布用肥料としての汎用性を示しています。ここ数十年の間に、小麦、とうもろこし、稲、ばれいしょ、大豆、てんさいなどの露地作物や、柑橘類、ぶどう、りんご、なし、ネクタリン、マンゴーなどの果樹作物にも使用されるようになりました。

 

圃場で実証されてきた効果

複数の国で実施された試験では、MKPの葉面散布による増収の可能性が示されています。とうもろこし、小麦、てんさいなどの露地栽培作物では、MKPの葉面散布により収量とリンの吸収が増加し、リン利用効率(PUE)が向上しています。

ネクタリン、マンゴー、ぶどうの圃場試験では、MPK の葉面散布がうどんこ病防除に重要な役割を果たすと同時に、P と K の欠乏を是正し、果実を肥大させることが示されています。

柑橘類では、MKPの葉面散布が、果実サイズの向上、果皮色の改善、果皮の厚さの低下、裂果やしわの減少、果皮表面の滑らかさの改善、果汁の増加、酸味の減少、糖酸比の向上など、果実の複数の品質特性を向上させることが試験で実証されており、MKPが果実の品質にもたらす多くの効果が実証されています。

 

工業的に量産されるようになったMKP

葉面からのリン供給の研究は1940年代後半から1950年代前半に始まり、高付加価値の園芸作物への使用に限定されていました。1990年代初頭にICLがMKPの量産に成功するまで、MKPは高価な肥料であったため、これらの高価値作物に重点が置かれていました。

ICLのMKPは湿式法によるリン酸を原料とし、ネゲブ砂漠のリン鉱石鉱床を利用し、硫酸、粗リン酸、精製リン酸、過りん石灰、粒状肥料を製造するミショール・ローテム工場で一貫して生産されています。MKPの製造には、ICLが開発した革新的な独自のプロセスを採用しており、最高の品質を確保しながら、同等製品よりも低いカーボンフットプリントを実現しています。

MKPを入手しやすく手頃な価格にするというICLが果たす役割により、当社はMKPの世界的な主要メーカーの一つとなっています。

 

高品質、低カーボンフットプリントのMKP

ICLのMKPは、非常に純度の高い第一リン酸カリウムで、露地栽培、果樹栽培、施設栽培など幅広い栽培条件下で、リンとカリウムを葉面から供給する優れた選択肢で、「Nova PeaK」のブランドで流通しています。

 

参考文献:

Jean-Pierre Leymonie (2007). Phosphites and Phosphates: New Ag International, September 2007 edition.

Klaus Schrödter; Gerhard Bettermann; Thomas Staffel; Friedrich Wahl; Thomas Klein; Thomas Hofmann (2012). “Phosphoric Acid and Phosphates”. Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry. Weinheim: Wiley-VCH.

Reuveni M.; Reuveni R. (1998) Foliar applications of mono-potassium phosphate fertilizer inhibit powdery mildew development in nectarine trees: Canadian Journal of Plant Pathology.

Thao; Yamanaka (2008). Phosphite (phosphorous acid): Fungicide, fertilizer or bio-stimulator?: Soil Science and Plant Nutrition (SSPN).

Williams, L.; U. Kafkafi (1995). Intake and translocation of potassium and phosphate by tomatoes, by late sprays of KH2PO4. In Proc. Symposium of Foliar Fertilization, Cairo, Egypt.